『英語ができない!』その思いこみを解きほぐす

英語に自信を持てないあなたへ

こんにちは。会議通訳のあひるです。私は海外経験もなく,社会人になってから英語を習得しました。そのせいか自分の意識としてはかなり長いこと,実は通訳になってからもずっと自分は英語が苦手だと思っていました。

しかし通訳として日々お仕事は頂けていたわけですから,全くできないはずはないんです。そして通訳稼業も10年を超えた今,その理由がやっと見えてきました。単に自分はありもしない虚像を目指していたのだと。

これを私はごく個人的に白馬の王子と呼んでいるのですが,今日はその心の持ち方についてお話します。日々学習を続けていくためには,ここの理解が本当に大切だからです。

英語を話せるあっち側の人たち

まず,言葉というのは壮大な慣れです。英語圏に生まれればどんな阿呆も英語を話します(今後『母国語をわかったつもりでわかっていない人たち』も取り上げますが,今はとりあえず『日常生活に困らない』とご理解ください)。才能とかないです,ただの慣れです。

ですから(初期に一気に伸びる人,ある程度の時間を経てぐぐっと伸びる人など)伸び方に違いはあれど,正しく時間をかければいずれ伸びます。当たり前のことです。

しかし英語に自信がない人が『英語を話せるようになりたい』と言う時,世の中には『英語がペラペラの自分とは違う世界の人たち』と,『英語ができない,自分と同じ世界の人たち』がいて,その間にはマリアナ海溝よりも深い溝があるような気がしていませんか?

私はそう感じていました。通訳になってかなり経ってからもです。そんな人は存在しないと気づいたのはここ数年です。しかし英語があまり得意でないと,英語を話している人って,みんな『外国人の英語なら何でもわかる,自分とは違う世界の住民』に見えていたんです。

しかし私は職業柄,日常的にたくさんの『英語が堪能な人』と仕事をしていますが,実はそんな人はそういません。ネイティブであってもです。どういうことなのか?今日はふたつ,お話させてください。

ハマりがちな第一の沼

第一に,英語はあまりに多くの国や地域の人が話すので,『標準的な言い方』なんてものから程遠い場合があります。これは『アメリカ英語とイギリス英語は違う』などというレベルの話ではありません。

英語はあらゆる国・地方の非ネイティブが話すので,あらゆる(とんでもない)クセ・アクセントが飛び交っています

例えばあなたが非英語圏,フランスなりチェコなりを旅行中に道に迷ったとします。現地の言葉がわからなければ,とりあえず下手でもなんでも英語で道を聞こうとしませんか?それが仮に通じなくて,相手が英語わかんなかったと凹んでいたら?いえ,あなた悪くないですって思いませんか?

英語って,そういう言語なんです。特に日本で外国人が英語を話していたら,別に母国語だから/得意だから話している訳ではありません。単に日本語が話せないから英語を使ってるだけです。正しいとは限らないし上手だとも限りません。わからなくて凹むものでは全くありません。

しかし初学者の場合,ものすごいクセがあってもクセがあること自体に気づけないので『また英語がわからなかった』となりがちです。苦労して勉強中の人,真面目な人ほどです。英語で堂々と話しかけられると,なんだか相手が正しい(すごい)気がしてわからない自分が悪い,と思いがちです。

しかし語学のプロと言われる通訳も,なんならネイティブも,やはり癖のある英語は苦労するしわからないこともあります。それでも理解できるのは,文脈が理解できていたりトピックに関する知識があったりするからです。

しかし,ここで『外国人の英語はみんな理解できないと』なんて思い始めると,ありもしない虚像を追い求めることになります。これが私がとてもよく見る第一の沼です。

ハマりがちな第二の沼

第二に,そもそも,ある言葉を一度聞いて完全に理解できることなど絶対にありません。言葉というのは思考を伝えるツールであって,他人の思考を一度聞いて完璧に理解することなどないからです。

日本語の会話を考えてみてください。相手に伝えたい,理解してほしいメッセージがあってそれを言葉にする。聞く方は,時に『ん?』と思ったり,『どういう意味?』と確認したりしながらお互いの理解をすり合わせていく。本来,言語コミュニケーションとはそういうものです。

しかも英語で話しているということは,異なる文化圏の人と話をしているかと思います。その場合,大抵お互いの常識はとんでもなくずれてます。日本人の常識では『・・・は!?』と思うようなことをごく平然と言い募っています,ベラッベラな英語で。

これが日本語だと『何言ってんだコイツ』となるのですが,これが英語になった瞬間『英語がわからなかった』と思いがちです。

特に英語を始めたばかりだと,そもそも外国人との会話,異文化圏のコミュニケーション自体に慣れていないことも多いと思います。そして人間って予想を遙かに超えたことを言われると『わからなかった』とか『聞き取れなかった』と思ってしまいます(これもそのうち詳しく書きます)。

これは決して『英語がわからなかった』訳ではなく,日本語で聞いていても『意味わからなかった』となるところです。

しかし初学者が英語でなにか言われてわからなかった時,そもそも何がわからなかったのかを切り分けるのは難しいと思います。結果すべてが『英語がわからなかった』となってしまう。これが私がよく見る第二の沼です。

そして追い始めてしまう白馬の王子

しかし繰り返しますが,正しく時間をかけていけば,純粋な英語力自体は絶対に,そして確実に伸びているんです。しかしそこで沼に片足つっこんだままでいると,ありもしない虚像を追い始める羽目になります。すると,こうなります。

結局,どこまで行ってもわからないことは出てくるんです。それに早く気づき,『どんな外国人の英語もわかる状態なんて絶対にない』と心底腹落ちしないことには,永遠に『こんなに頑張っているのに出来るようにならない』と嘆き続ける羽目になります。

私がごくごく個人的に白馬の王子と呼んでいるのは,こういうことです。

英語を話している自分,イメージできますか?

さて,ここで立ち返って。あなたが『英語ができるようになりたい』という時,それはどんな状態ですか?それをまず,しっかり考えてほしいのです。

というのも,『どんな英語も完璧にわかる』などと言っていると沼にはまりますが,個々人の必要な範囲にしっかり焦点を絞れば英語は絶対に使えるようになるからです。

自分が英語を話している具体的な状況をしっかりイメージできるレベルまで,ゴールを明確にしてください。例えば『外資系企業で会計の仕事をしたい』,『経営学を学ぶために留学したい』,『外国人の友だちと仲良くなりたい』。このように明確な範囲の英語を身につけることは,絶対に可能です。

目標を明確にすることで,英語への向き合い方も整理できます。たとえば『外資系企業で会計の仕事をしたい』と言いながら海外ドラマの小粋な表現がわからなくて落ち込む(沼にハマる)ようなこともありません。

『全部わからないと!』などと思う必要はないし,まして落ち込むのは時間と精神力の無駄です。

海外ドラマであれば,今自分はゴールを目指す学習の一環として見ているのか(目標が『外国人の恋人をつくる』であれば大いに役立つと思います),モチベーションアップのために見ているのか(モチベーションのコントロールも重要なスキルです),純粋な娯楽として楽しんでいるのか(息抜きも大事です),そこをしっかり整理できます。

このように目的が明確になっていると,本当に必要なことなら自然と力も入りますし,逆に娯楽であれば変に気負ったり落ち込んだりすることなく純粋に楽しめます。

このように,(1)自分の目標を明確にして,(2)その上で適切なトレーニングを行う,これは本当に,本当に重要です。具体的な方法は,これから山と書いていきます。一緒に頑張りましょう, Bon Voyage!