こんにちは。会議通訳のあひるです。年の瀬,如何お過ごしですか?ちょうど1年を振り返る時期ではないでしょうか。
しばらくかなり具体的な英語学習方法についてお話してきましたが,今日は少しお休み。時節柄,英語学習でもとても大切な『振り返り』について少しお話したいと思います。
手続き的記憶の恐ろしさ
何度も触れてきましたが,私は海外経験もなく,社会人になってから英語を習得して会議通訳になりました。元々英語は大の苦手。そのため『英語が聞き取れない』という感覚は今でもとても鮮明で,ありありと覚えています。しかし同時に聞き取れるようになった今,『今自分の耳にすっと入ってきているこの会話が聞き取れない』というのを想像することがとても難しくなりました。
たとえば通訳の会議中。繰り返しますが,『何を言ってるのか全然わからない』という感覚自体はよく覚えているんです。しかし今この瞬間目の前で繰り広げられる会話が聞き取れない,というのが想像しにくい。言ってみれば,『難しい会話では何を言っているのか全然わからないということは(よく)あるけど,今この会話はみんなわかっているだろう』という感じでしょうか。まったく恐ろしいことです。
この現象は,認知科学分野で手続き的記憶(Procedural memory)と呼ばれるタイプのものでよく見られます。英語に限らず身体で覚える技能・スキル全般のことで,泳ぐ,自転車に乗るなどがよく例に挙げられます。生まれた時から自転車に乗れる人はいません。小さい頃なら補助輪などをつけて,それぞれに練習して乗れるようになったはずです。しかし乗れるようになった今,もう完全に身体で覚えてしまっているので乗れない状態を想像せよと言われても難しい。これと同じです。
英語も幼少期に海外経験でもない限り,初めはみんな聞き取れなかったはずです。たとえ小さい頃に英会話教室に通っていたりして開始が早かったとしても,それでもみんなそれぞれABCを覚えるところから始めたはず。初めて聞いた英語は誰しも意味がわからなかったはずです。しかしある程度聞き取れるようになると,この『まるでわからん』感覚って見事に忘れます。
なぜこの話をしたか。それは,この手続き的記憶についてはかなり意識的にならないと今の自分を当たり前だと思ってしまう,『できなかった自分』さえ忘れてしまう。つまり,かなり意識しないと成長を感じることが難しい,そんな話をしたかったからです。
成長が見えるしくみを作る
やはり何事も,『やればできる』と思っているからこそ頑張れるのではないでしょうか。本当は伸びているにもかかわらず,本人がやってもやっても成長を感じられないようでは英語学習のモチベーションを保つのは難しい。そこでぜひ,振り返りについて意識的になってみてほしいのです。
たとえば,何か新しい学習を始めるとき,継続しているとき。日々の学習時間やその日やったことなどを書いておくと,後から『こんなにやったんだ!』と見える化できて有効です。しかしそれだけでなく,その時その時の感覚を一言でいいので定期的にメモし,後からいつでも見られるようにしておくことをオススメします。
たとえば,なにかリスニングの教材を始めたとします。○月△日,『何を言っているのか全然わからない』,『3日前やったのに聞き返したら全然わからなかった』,『1ページ30分で計画したけど3時間かかった』,なんなら『出来なすぎるヤバイ』,それだけでいいんです。もちろん数値化できる指標などがあれば後から比較できて便利ですが(1ページ読むのに○時間かかった,など)完全な感覚だけでも充分です。ひとこと書いておけば,後から読み返した時にはその時の感情がありありと蘇ります。
特に英語の初心者の場合,伸びも早いし伸びを忘れるのも早いです。なぜなら語学は終わりがないので,相当伸びていてもやはり出来ないことはどんどん出てきます。当然出来ないところは出来るところより気になります。加えて先ほどお話したとおり,人は『できなかった自分』をいとも簡単に忘れます。そりゃ『いくらやっても伸びない』と感じるのも当然です。これは,実にもったいない。
そこで何かの節目でも定期的にでもいいのですが,ぜひその時その時の感じ・状態をどこかに書いておいてみてください。初心者なら最低月に1度,ある程度できるようになってからもぜひ2,3ヶ月に1度は記録してほしい。そして伸び悩んだ時,学習がうまく進まない時にぜひ読み返してみてください。自分でも気づいていなかった成長を感じられると思います。
私自身,そういった例は山ほどあります。たとえば私は英語の学習を始めてかなり経ってからも,アクセントというものがまるでわかりませんでした。アメリカ英語もイギリス英語も同じように聞こえていたし,『ドイツ訛りの英語』『フランス訛りの英語』なんて全然わかりませんでした。しかし今は別言語のように違うことがわかります。だからこそ,『◯年前まで(こんなに違うものが)同じに聞こえていたんだよなぁ』と思うと,しみじみ成長を感じます。よく頑張ったな,と。この,成長を感じるというのは学習を続ける上でとても有効です。
年の瀬,それぞれに1年を振り返るタイミングではないでしょうか。英語学習でも振り返りはとても大事なのですが,意識的にならないとつい成長を過小評価してしまいがちです。ぜひ今,その感情を書き留めておいてください。将来伸び悩んだ時,きっと大きな力になってくれるはず。一緒に頑張りましょう,Bon Voyage!