こんにちは。会議通訳のあひるです。今回からしばらく,リスニングに焦点を絞ってお話します。
たとえ短文レベル,1文単位でも『読めばわかる』ものが確実に聞き取れるようになると,大きな進歩を感じられます。初級から中級への要諦となるところです。
困難は分割せよ:『英語が聞き取れない』を解きほぐす
17世紀の哲学者デカルトは著作『方法序説』で言いました。困難は分割せよ。これは外国語学習においても非常に重要です。たとえば『英語が聞き取れない』。これはもう,ありとあらゆる要素が絡んでいます。これを解決する唯一の方法は,何故聞き取れないのかの要素を分解し,ひとつひとつ対応していくことです。
【1】読んでわかる単語が聞き取れない
音を知らないからです。知らない音は聞き取れません。おそらく2,3ヶ月,長くても半年ほど集中して一気に訓練すれば必ず聞き取れるようになります。しかし実際のリスニングでは,以下の【2】短い文レベル,【3】長文レベルが本当に聞きとれていれば前後の文脈からほぼ推測できます。したがって『音が聞き取れない』だけが理由で英語が聞き取れないことは稀です。おそらく他の要因と絡み合っています。音はどこかのタイミングで集中して訓練する必要はありますが,英文を聞いて『なんだかよくわからん』状態の場合,今の最優先事項ではありません。
【2】短い文が聞き取れない
短い文が聞けなければ長文は絶対に聞き取れません。最優先で取り組むべきはここです。繰り返しますが,困難は分割せよ。ここはリスニングに焦点を絞るため,『読んでわかるけれど(=単語や文法,構文は理解しているけど)聞き取れない』場合に焦点を絞りましょう。ちなみに読んでわからないものはまず単語や文法を習得する必要がありますが,英語学習の効率を考えると『読んでわかるけれど聞き取れない』から取り組む方が伸びは早いです。
まず,単に英語の発音,リズム,アクセント,イントネーションに慣れていないだけ,という場合。2,3ヶ月も集中して練習すればすんなり聞こえるようになります。早い方だと1ヶ月もすれば効果を感じるかもしれません。いずれにせよ,そう難しくはありません。
しかし『読んでわかるけれど聞き取れない』場合,おそらくほとんどの方の真の原因は,頭の中で英語を処理するスピードが遅い,もしくはギリギリなのだと思います。
困難を分割せよ。アメリカのフォード自動車の創始者:ヘンリー・フォードも言葉を変えて同じことを言っています。“Nothing is particularly hard if you divide it into small jobs(仕事は細かく分割していけばそう難しいことはない)”。実に真理です,特に英語学習で。これを例に見てみましょう。
一般的に英語の朗読音声(audibleなど)は1分間に150-160語程度,ネイティブスピーカーの自然な会話やニュース音声(CNNなど)は1分間に200語程度と言われています。上のヘンリーフォード氏の発言は11語ですから,日常会話では3.3秒で発され,次の発言に移ることになります。これを3.3秒で読み,会話であればすぐ返事できるようなレベルできちんと理解・処理できるでしょうか。
3.3秒ピッタリで理解できる場合,脳みそフル活用,100%全集中して聞けば理解できる状態です。しかし私たちの普段の会話では,つまり英会話の実用に耐えるためには,相手の発言を聴きながら『まぁそうかも』とか『この点については○○といった意見もあるのではないか』とか『眠いなぁ』とか『この人いつまで喋るんやろ』とか実に雑多なことが頭をよぎる中,自分の意見もまとめ,相手の発言が終わると同時に返事をします。なので実用に耐えるには3.3秒では遅い。
一般的には,聞こえるスピードの3倍で理解できれば余裕で英語運用に耐えられると言われます。この文章なら1.1秒。しかしそれは初心者の目標としては結構なハードルかと思います。個人的な感覚では1.5倍,つまり1分間に300語を理解できるレベル,この文章であれば2.2秒で理解できるようになってくると,かなり世界が変わります。短文が『読んでわかるけれど聞き取れない』場合,この『英語を処理するスピードが遅い,もしくはギリギリ』が根底にあって,そこに慣れない発音やアクセントが加わってもうお手上げ,おそらくこんなところではないかと思います。
これを解決するには,読んでわかるけれど聞き取れない素材を使って,『短文を聞き,同じスピードで一緒に声に出しながら同時に頭で意味も理解できる状態』を目指してトレーニングします。具体的な方法は次回以降お話ししますが,それができるようになると頭の中の英文処理のスピード自体も上がります。短文リスニングが初心者から中級者への要諦となるのは,このような理由です。
【3】(1文1文なら聞き取れるが)長い文章になると聞き取れない
おそらく,以下のいずれかが原因かと思います。
まず,内容を知らないパターン。これは日本語で同じ内容を読んでも/聞いても実は理解できていないのだけど,日本語なので『わかったつもり』になっていて本人も気づいていないパターンです。これを個人的には母国語の罠と読んでいます。侮ることなかれ,地味によくあります。慣れない分野の通訳では身につまされます。日本語だと理解が曖昧なことに気づいていなかったけれど英語になった途端『わからない』が炙り出されてくる,そしてそれを英語力のせいにしてしまう。この場合,日本語で同じような分野のものを読み,知識を底上げすれば理解できます。
『なんとなく聞き取れない(けど理由がわからない)』,つまりご自身で判別がつかない時は,ぜひ一度日本語で似たような内容のものを読んでみてください。その後もう一度英語を聞き直してみると,内容の問題なのか英語力の問題なのか,だいぶクリアになると思います。
しかしおそらく一番多いのは,脳内で英語を解釈するスピードが遅い,もしくはギリギリであるパターンかと思います。これは上の【2】短い文が聞き取れない,と全く同じですが,短文のリスニングをある程度練習すると,次第に『短い文ならついていけるようになったけど長くなると息切れしてしまう』段階が訪れます。【2】同様に英文を処理するスピードを上げる必要がありますが,アプローチが違います。短い文は聴きながらトレーニングするのが効果的ですが,短い文をしっかりクリアできていれば,長文はリーディング,一定以上の速さで英文を読めるよう訓練するのが結局一番早いです。
短文の場合,読む速度を上げるといっても現実的に難しいところがあります。ストップウォッチを持って1.1秒測って読むというのも余計な労力がかかりすぎます。こういうものは耳を使ってどんどん慣れるトレーニングした方が早いのですが,本質的な目標はあくまで英文解釈の速度を上げることです。その点リーディングというのは自分のペースで英文を解釈していく作業です。文章が長くなると結局この読む速度を上げるのが一番の近道,そして逆に結局そこそこの速さで英文が読めないとリスニングもどこかで行き詰まる,これが私の痛みを伴う実感です。
長文を耳で聴いていると,その瞬間その瞬間は理解できなくても文章はどんどん進むので,キーワードを拾っていくうちになんとなくわかってくるものです。このような類推力もそれはそれで大事ですが,反面実際は聞き取れていないのにそれに気づけないこともあります。そうすると,『得意な分野は(実は聞けていないけど後からどんどんキーワードが出てきて知識が繋がっていくので)英語で聞きとれるけど,分野が変わったら全然わからない!』という感覚になります。
対してリーディングでは,少々わからない程度なら“読み飛ばして次”も可能でしょうが,やはりある程度はわからないと次に進みません。そのため『しっかり理解しながら解釈するスピードを上げる』練習に最適ですし,結局これがリスニングの近道です。
リスニング攻略の見取り図
実際に取り組む順番は,まず集中して【2】,ある程度聞けるようになってきたらどこかで集中して【1】,その後【1】を続けながら徐々に【3=リーディング練習】を取り入れていく,です。次回から何回かかけて,この過程を分解し,私なりの攻略法をお伝えしていきます。一緒に頑張りましょう, Bon Voyage!