こんにちは。会議通訳のあひるです。私は海外経験もなく,社会人になってから英語を学習しました。その経験を踏まえて英語学習法をお伝えしているのですが,今日は『読めばわかるけれど聞き取れない』短文のリスニング攻略,これがテーマです。
『読めばわかる』ものが確実に聞き取れるようになると一気に視界が開けます。大きな進歩を感じられるところなので,ぜひ一緒に頑張りましょう
目指すべき姿
英語リスニングの基礎となるのが,短い文章のリスニングです。以下の記事で詳述しましたが,『読めばわかるけれど聞き取れない』場合,おそらく大半の方の真の原因は頭の中で英語を処理するスピードが遅い,もしくはギリギリなのだと思います。
この短文リスニングの段階では,この『読めばわかるけれど聞き取れない』レベルの教材を使って,『短文を聞き,同じスピードで一緒に一緒に声を出しながら同時に頭で意味を理解できる』を目指してトレーニングをします。
シャドーイングの落とし穴
まず,これは自分自身の反省も込めて。上で,最終的に目指すべき姿は短文を聞き,同じスピードで一緒に声に出しながら同時に頭で意味も理解できる』だとお伝えしました。しかし,ナチュラルスピードで英文を解釈できるようになる前に,始めから同じスピードで一緒に声を出す,いわゆるシャドーイングをするのはオススメしません。物事には順番があり,正しいステップを踏むことがとても重要です。
意味が取れず,内容のわからないものの音だけを追おうとすると『聞き取れた音のみ頭の中で日本語の音に変換され,それを繋げた音の羅列』になります。本来シャドーイングで習得すべき英語のリズムを習得できません。伸びやかな音やたっぷりとした長い子音,単語同士の自然な音のつながりなどです。シャドーイングは英文を充分理解し,ナチュラルスピードで頭から理解できるようになった段階で取り組んで初めて,とても有効な練習となります。
具体例を挙げてみましょう。I don’t want to go to school, Daddy! (お父さん学校行きたくない!)という英文があるとします。これを意味も理解できないまま音だけ聞くとどうなるでしょう。
まず,日本語は子音だけの発音がないので,集中して訓練をしていないと子音のみの音は聞き取れません。(非常に強く発音されている場合は音の存在は認識できるもの,頭の中で知っている日本語の音に置き換わることはあります。”s”が”ス”とか)。その聞こえない部分を消すと,脳内に響く音はこうなります。I don(’t) wan(t) to go to (s)choo(l), Daddy!
そして英語は日本語に比べて非常に抑揚が強いので,アクセントのある音が日本語の何倍も強く発音されます。すると聞こえるのはI don(’t) wan(t) to go to (s)choo(l), Daddy! ,こんな感じでしょうか。そして人間の脳の性質として,知らない音は知っている日本語の音に変換されます。これを素直に『(本人が)聞こえたまま』口に出すとどうなるでしょうか。
多分,よくてこんな感じです:ァドンゥォゴーク,ダ!これは避けましょう。このような英語がダメだというより,一度変な癖がつくと,後から矯正したくなった時に大変な手間がかかるからです。
実はこれ,ほぼほぼ私の実体験です。反省を込めて繰り返しますが,一度身についたクセを矯正するのは,ゼロから体得する何倍もの労力がかかります。もちろん,英文全体の構造がしっかり頭に入り,ナチュラルスピードで理解でき,細かい音まで充分注意を向けられる状態であればシャドーイングは大変有益です。何事にも適切なタイミングというものがある,という話です。
短文リスニング 攻略の手順
私は通訳学校に行ってから(かなり苦労して)矯正しましたが,ぜひ皆さんは正しい段階を踏んでください。ひとつできるようになったら次に行く。ここでは具体的手順も記載しますが,それよりも各段階の到達目標をしっかり理解してください。目的は練習自体ではなく,最終的にそれぞれの段階で必要な能力を身につけることです。ぜひ,以下を参考にしながらご自身にとって効くやり方を試行錯誤してみてください。
【1】文章の中身をしっかり理解する
頭で理解するところです。目で読み,必要に応じて単語や文法を調べて終了,すぐ終わります。というか,これがすぐ終わるレベルの素材を選んでください。
【2】文章を音読/黙読しながら,同じスピードで頭で意味を理解できる
理解した英文を,頭から処理できるようになる段階です。
『読んで理解できるが聞き取れない』場合,返り読みをしていることがあります。まずはゆっくりでいいので頭から英語の語順で理解できるよう練習します。これができないとリスニングはできません。この段階では速度を気にする必要はありません。シャドーイングではなく音読,黙読するのはそのためです。まずは自分のペースで『英文を(頭から)読むと同時に意味が頭に浮かぶ』よう練習します。
以下は練習方法の一例です。
まず,テキストを見ながら音声を聞きます。音声を何度も聞きながら,耳から聞こえるひとつひとつの音が目の前の1語1語と対応することを確認してください。
次にいよいよ読む練習です。負担なく読めるようであれば音読がいいと思いますが,難しければ黙読からスタートします。あくまでご自身の感覚で判断してください。
ここでは読みながら,読むと同時に頭に意味が浮かぶよう,繰り返し練習します。これは日本語訳ではありません。日本語訳ではなく,英語を聞くと同時にその意味するところ・状況・イメージが頭に浮かぶよう練習します。難しければ,それができるところまで速度を落とします。内容を理解できている以上,ゆっくりなら必ずできます。
そして徐々に速度を上げていきます。黙読で始めた方は,徐々に音読でも試してください。さらに負荷がかかってくることが感じられると思います。
【3】音を聞いて,同じスピードで頭で意味を理解できる
ある程度の速度で理解できるようになったら,いよいよナチュラルスピードでの理解を目指します。今までは自分のペースで読んでいましたが,今度は英語音声を聞き,その速度で同じように英文が意味するところ・状況・イメージが頭に浮かぶよう練習します。この段階では声に出す必要はありません。とにかく全集中して聞き,自然な速度で読み上げられる英語と同じスピードで英語を解釈ができるよう集中します。
【4】音を聞き,同じスピードで一緒に声に出しながら同時に意味を理解できる
いよいよ最後の段階です。音声を聞き,同時に自分の声で教材を読み上げながら(テキストを見ながらで構いません),同じように英語を解釈できるよう練習します。
よく,ひとつの教材を何度も繰り返すのがいいのか,様々な英文に触れるのがいいのかというご質問を頂きます。これは完全にレベルによるのですが,今の段階ではこの【4】までできれば次にいきましょう。つまり,ひとつの素材をナチュラルスピードで聞いてしっかり理解できる必要はありますが,暗唱までは必要ない(暗唱を否定しているのではなく,それより次にいった方が効果的)と考えています。
ナチュラルスピード,プラスアルファを目標に
ちなみに,何故リスニングで【3】音を聞いて,同じスピードで頭で意味を理解できる,だけでなく,【4】音を聞いて,同じスピードで一緒に声に出しながら同時に意味を理解できる必要があるのか。それは『音を聞いて,同じスピードで頭で意味を理解できる』だけではまだ実用にはキツいからです。
【3】に到達した段階,つまり『ナチュラルスピードの音を聞いて,同じスピードで内容を理解できる』というのは,言ってみれば『100%全集中して聞けば相手の言いたいことが理解できる』状態です。しかし実際に英語を使う場面,例えば会話のシーンを考えてみましょう。
私たちは普段の会話では,頭の中では実に雑多なことを考えながら相手の発言を聞き,自分の考えをまとめ,返答をまとめ,そして相手の発話が終わったらこちらが発言します。このプロセスに耐えるには,ナチュラルスピードについていけるだけでは不充分です。
そしてこの,『ナチュラルスピードを超えて理解する』にはなんらかの負荷をかけて練習するのが一番です。例えば通訳学校などにいくと,ナチュラルスピードで聞きながら内容をまとめたり(要約)聞いてすぐ後に内容を復唱したり(リテンション)しますが,これもある種の聞き取りの負荷をかける練習です。そして今この段階では,負荷をかける方法としてモデル音声と一緒に声を出してみることがオススメです。自然な英語のリズムを真似することができ,発話の練習にもなり,また単純に単に声に出すことで英文が自分の身に染み込んでいくような効果もあります。
如何でしたか?冒頭触れたとおり,ここは『初心者』から『中級』への大きなターニングポイントとなる段階です。一緒に頑張りましょう, Bon Voyage!