こんにちは。会議通訳のあひるです。今日は英語の音の攻略です。
よく言われるとおり英語と日本語では音が違うので,英語の音は個別に習得する必要があります。しかし結局のところ物理的な口の運動ですから,集中して数ヶ月ほど取り組むとある程度は習得できます。ここまでお伝えしてきた短文の聞き取りがある程度進んできたら,ぜひどこかで時間をとって試してみてください。一気に英語が『英語』として耳に入ってくるようになると思います。
なぜ英語はかくも聞き取れないものなのか
なぜ英語はかくも聞き取れないものなのか。まずはその理由を考えてみたいと思います。
自己紹介の回でも触れましたが,実はあひるは学生時代,学士,修士ともに認知言語学を専攻しました。言語獲得の基礎理論は習得しているつもりです。今回の目的は音波(物理学)ではありませんし,説明の都合もあるのでかーなーり単純化しますが,ぜひ一度お伝えしたいところです。まずは雑学程度におつきあいください。
そもそも音というのは音波,空気の振動です。空気のあるところにはあらゆるパターンの音波が飛び交っており,それは自然な連続体です。人間の発声も同じです。
たとえば,世の中に『あ』『い』『う』『え』『お』という特定の音波があるわけではありません。人間の発声も,本来様々なパターンの音波の連続体です。
しかし,仮に私たちの脳がごく僅かでも異なる音波を違う音として認識していたらどうなるでしょう。発声には個人差もあります。発言者の音波のパターンごとに異なる音に聞こえていたら,とても言語処理はできません。そのため私たちの脳は幼少期に母語を獲得する過程で,音声認識を母国語に合わせて最適化・パターン化します。
たとえば日本語環境にいる乳幼児の場合,周囲の本来連続的で無限の音波パターンのうちある一定の範囲の音を『あ』,また別の範囲の音を『い』,また別の範囲の音を『う』・・・,と認識するよう脳が学習します。繰り返しますが,この学習がないと周囲の音は無限の異なる音に聞こえ,言語処理ができません。これは母国語を習得するための,大切な大切なプロセスです。
しかし,これが足かせになるのが外国語学習です。つまり日本語環境では,私たちの脳は幼少期から一定の範囲の音を『あ』,別の一定の範囲の音を『い』と認識するよう学習しています。しかしこの音ごとの分け方・範囲は言語により違います。
たとえばよく言われる,日本人がLとRを聞き取れない問題。英語話者はある特定の範囲の音をR,また別の範囲の音をLと認識するように脳が学習していますが,日本語話者はどちらの範囲の音も同じ『ら』と認識するよう脳が学習しています。
また,『あ』と『え』の中間の音[æ]。これも同じです。日本語話者は特定の範囲の音を『あ』,また別の範囲の音を『え』と認識するように脳が学習していますが,英語話者はこの『あ』の一部と『え』の一部を一つのカテゴリーとし,[æ]と認識するよう脳が学習しています。
このプロセスにより,私たちはあらゆる音を母国語で知っているどれかの音に当てはめようとします。英語のRを聞けば,それを母国語の音の範囲にあてはめて『ら』と認識します。また,英語は子音のみの発音がありますが日本語にはありません。そのため日本語環境に育って特別な訓練をしていない限り,英語のs(子音のみ)を聞くと『さ』『し』『す』『せ』『そ』と聞こえます。
このように,英語の音が聞き取れないのは理由があります。同時にこれがまさに,どこかで集中して英語の音を習得しなければいけない理由でもあります。意識して英語の音を習得しない限り,私たちの脳はあらゆる音を永遠に日本語の知っている音に変換して認識します。ただこれはあくまで音のみの問題,もっと言えば口の動かし方や筋肉の使い方など運動能力の問題なので(自分で発音できれば聞き取れるからです),数ヶ月も集中して訓練すればある程度身につきます。
ちなみにこれは完全な余談。時折この理論は英語の早期学習教材のマーケティングで応用されます。母国語習得の過程で外国語の音も日本語の音に変換して聞こえるようになるので,『幼少期じゃないとネイティブ発音は身につかない!』,転じて『幼少期じゃないと英語は身につかない!』,云々(もちろん全てではありませんが)。時に『臨界期』などと呼ばれたりします。
幼少期の英語学習については私自身よく考えるもので,いつかどこかのタイミングで集中して取り上げたいのですが,今日のこの話はあくまで音に限った話です。今日時点ではとりあえず,『ネイティブ発音を身につけること』と『英語運用能力を身につけること』はまったく次元の違う話であること,そして運用に耐えうる英語能力を身につけるのに遅すぎるということはないということ,この2点はお伝えしておきます。
(私自身海外経験もなく,社会人になってから英語を身につけたのでその過程で実に様々なものを試しました。本当によかったもの,お金の無駄だったもの,玉石混合です。その経験から,英語学習産業の時に過剰な広告には少しばかり思うところもあってこんな話も触れてみました。今から学習される方は情報戦に惑わされず,真に価値あるものを使って最短ルートを行って欲しい。そんな思いもこのブログのモチベーションだったりします)
英語の音を攻略する
では具体的な攻略法です。英語発音も本当に様々な教材・商材がありますよね。実は私,発音の高額なレッスンも受けたことがあります。しかし結局必要なエッセンスは以下の2冊に網羅されています。
【1】子音,母音,音節(子音や母音の組合せ)の発音の習得
かなり有名どころですが,英語耳 発音ができるとリスニングができるがオススメです。
この『英語耳』は『発音できれば聞き取れる』というコンセプトで英語の発音方法を解説しています。上で説明したとおり,結局英語の音は1音1音,つまり子音や母音をひとつひとつ習得していく必要があるのですが,その目的に最適です。
ちなみにこの『英語耳』,後続で『単語耳』全4巻など様々なシリーズが出ています。しかし『英語耳』の全体像(理論)や個々の子音・母音の発音,そして基本的な音のつながりはこの1冊で充分網羅されています。まずはこのはじめの1冊をしっかり身につけることをオススメします。
【2】発声方法の習得
かなり好みが分かれるであろうことは重々承知しつつ,それでも理論自体は非常に学びが多かったのでご紹介します。『英語発音,日本人でもここまでできます』をぜひ一読し,納得される箇所があれば,そこから練習を始めてみてください。
この著者はオペラ・声楽をされています。声楽と英語の発声方法には共通点が多いことに気づき,声楽発声を英語発声に応用する・・・,というコンセプトなのですが,練習用DVDでは著者自らドレスで歌を披露されています。初めて見ると少しビビるので(すみません)好みが別れるだろうと書いたのですが,しかしそれに惑わされず(?)本文を真面目に読むと英語発声の真髄とも言えるヒントが多々あり,私には本当に参考になりました。
英語は発音だけでなく,発声方法が違います。日本語は主に口から声を出しますが,英語はお腹から息の長い音を出し,鼻腔まで声が響きます。私自身この『(発音ではなく)発声が違う』という発想はなく,初めて読んだ時に半信半疑で夫(カナダ人)が英語を話している時におでこに手を当ててみたことがあります。すると本当に骨が振動していて,本当だ!とかなり感動したことを覚えています。
【1】の英語耳では個別の子音,母音を練習します。これを身につけると,1音1音の発音ができるようになります。しかしそれでも,長い文章を読み上げるとやはりまだ何か違う,と感じると思います。それは息の使い方や声の出し方です。本書を読むとその理由,メソッドが理解できます。特に4章,『日本語の癖を除く』と題して『どういう発音が日本人なまりに聞こえてしまうのか』を個別に解説している項はとても参考になりました(でも白状します,歌の練習はしてません,すみません)。
日々の学習
【1】【2】とも,初めて取り組む時はなかなか書いてあるとおりには声が出せないと思います。まずは1,2ヶ月,時間がかかってもいいので集中して練習してみてください。ある程度できるようになると,いずれの本でも20-30分もあればひととおりの発音ができるようになると思います。これをぜひ,日々の英語学習のウォーミングアップ的に取り入れてみてください。数ヶ月もすると,きっと違いを感じます。そしてそれが,たとえば短い文の練習などと組み合わさって相乗効果となり,じわりじわりと効いてきます。一緒に頑張りましょう, Bon Voyage!