こんにちは。会議通訳のあひるです。
私はずっと英語が苦手でしたが,中でも英単語は本当にダメでした。当然ボキャブラリーの重要性はわかっているし,なにより知らない単語ばかりという状況には私自身がほとほと嫌になっていたので単語帳もあれこれ買うのですが,最後までできたことがありません。全て挫折しました。それでも会議通訳になった今見ると大抵の単語は知っています(当然だとお叱りを受けそうですが)。
なぜ,(最終的には身についたのに)こんなに苦労したのか?どうやって克服したのか。今日はそんな話です。
私のボキャブラリー奮闘記
英単語帳が覚えられない!
手元に某有名どころの英検1級単語帳があります。もちろん昔挫折したものです。ちょっと見てみましょう。適当に抜粋します。どれも重要度Aの動詞です。
apprehend | を逮捕する,を理解する |
address | (問題)を取り上げる,に対処する,に話しかける |
persist | やり抜く,持続する,固執する |
sustain | を維持する,に耐える |
emulate | を見習う,と張り合う |
これは私がそう思うだけなのか皆さんそう思いながら克服されてきたのかは未だに不思議なのですが,私にはこれがまったく意味のない文字列にしか見えません。脈略がなさすぎる。なんというか,サイコロ振って適当に出てきた言葉の組合せにしか見えないのです。
かくいう私も努力したことはあるんです。『覚えるコツ』なども参考にしました。曰く『ザックリとした暗記を何度も繰り返す』とか『忘却曲線を参考にベストなタイミングで復習する』とか。私は海外経験もなく社会人になって英語を克服して会議通訳になりましたので,そこそこ努力してきたつもりです。でも,この単語暗記は結局ダメでしたね。
ちなみに冒頭私は『今見ると大抵の単語は知っている』と言いました。これはあくまで通訳の会議中に出てくれば,つまり前後の文脈があればどれも理解でき,多分訳せるという意味です。単語単体で突然出されたら(辞書的に正解とされる)1対1の日本語訳が出てこないものは(結構)ある気がします。
通訳学校での体験
そんな私が縁あってというか血迷ってというか,通訳学校に通い始めました。おそらく有名どころはどこも同じような感じだと思うのですが,入門コースでは単語や表現のテストがあります(クラスが上がるとなくなることも多いのですが)。私が通った学校では毎週新聞記事が配布され,翌週そこに出てくる表現のテストがありました。既に手元にないのが残念ですが,出てくるレベルはこんなイメージです。
消費者物価 | consumer price |
実質成長率 | real growth rate |
産業空洞化 | hollowing-out of industry |
景気刺激策 | economic stimulus package |
緊縮財政 | fiscal restraint |
通訳云々以前に基本の英語力がありませんでしたから,正直かなり苦労しました。テスト以前に,1週間毎日ギリギリまで時間をとっても記事が読み終わらないんです。しかしそれでも力業で進めていくと,ある程度点数が取れるようになりました。満点は難しいものの,7割8割は取れるんです。これは正直,喜びよりも驚きでした。英単語を覚えられた?そこで初めて気がついたんです。前後の文脈やフレーズなど,しっかりとした意味・脈絡があれば私でも覚えられるのか,と。
そもそも,英単語は何故こうも覚えにくいのか
そもそも,英単語は何故こうも覚えにくいのか。それはひとえに,そもそも英語と日本語は異なる言語体系ですから,語彙レベルでは1対1対応していません。そのため単語レベルの『正確な対訳』など存在しないのです。辞書や単語帳に出ているのは,『とある英語の概念を日本語で説明したら一番近い言い方』です。それでも名詞は1対1対応に近いこともありますが(apple = りんご,など),動詞・形容詞はまずありません。
たとえば日本語の“面白い”という概念は英語の interesting, funny, amusing, enjoyable, exciting など様々な概念をカバーしますが,当然 interesting = funny ではありません。そもそも1対1対応する語などないのです。それを無理矢理単語単位で覚えようとしていたので,過去の私はどんどん沼に入っていったのだと,今になるとわかります。
『覚えやすい単位』には強い個人差がある
突然ですが,英語の大学受験をしましたか?受験英単語と言えば,文章で覚えるもの(Z会の速読英単語とか),例文で覚えるもの(DUO 3.0とか),そして単語ごとに覚えるもの(英単語ターゲット1900とか)があり,それぞれ強固な支持層がいませんでしたか?今にして思うと,あれは表現力増強の本質だったな,と思うのです。
一部の名刺を除き,基本的に英語の単語と日本語の単語が1対1で対応していることはありません。前後の文脈があって初めて適切な表現が決まります。たとえば『面白い』を英訳せよと言われても様々な可能性が否定できませんが,『昨日のあの子の冗談は面白かった』であれば適切な訳が可能です。
結局言いたいことは,一定のまとまりでしか表現できません。それをどの単位で切り出して覚えるのが楽なのかは強い個人差があると思うのです。文章単位が一番頭に入りやすい人,フレーズ単位が一番頭に入りやすい人,単語単位が一番頭に入りやすい人,というように。
これはどの長さがいいという話ではなく,個人の趣味というか思考の癖のような気がします。しかし大事なのは,自分の覚えやすい単位を知り,それに合わせて増強していくと効率的にボキャブラリーを増やせると感じます。私も試行錯誤を繰り返しながら自分が習得しやすい単位を見つけてからは,だいぶ楽になりました(それでも大変ではあるのですが…)。
単語帳は,読み物である
単語レベルがいちばん覚えやすい方は,冒頭に挙げたような英単語帳でまとめて覚えてしまうのが早いでしょう。しかしそれができない,(私のように)単語や表現を文脈でしか覚えられない人にとって,いわゆる単語帳は役に立たないのでしょうか。
決してそんなことはありません。英語の参考書は数あれど,ひとつひとつの単語レベルでしっかり解説してくれるものは他にありません。辞書をすべて読むのは現実的ではありませんから,やはり単語帳の出番です。そういう方は単語帳は覚えるためではなく,単語について知るための読み物として活用することをおすすめします。
個人的なオススメが,鉄壁と5分間英単語。鉄壁は大学受験用,5分間英単語は社会人向けですが,いずれもひとつひとつの語について詳しく解説がされていて,深く理解するのに大変役立ちます。覚えようというのではなく,あくまで語彙の理解を深めるために時々読んでいると何かしら発見があります。私も重宝している2冊です。
如何でしたか?表現の幅が広がると,英語も一気に楽しくなると思います。楽なところではないからこそ,少しでも私の経験がお役に立てば嬉しいです。一緒に頑張りましょう,Bon Voyage!