初心者のための洋書案内③ 読書を英語力向上につなげるしくみ

初心者のための洋書案内:読み方のコツ

こんにちは。会議通訳のあひるです。

ここまで2回,洋書のススメとして本選びのコツ,読み方のコツをお話してきました。ここまではいわば『読むことのハードルを下げる』ヒントでした。ではこれを如何に英語力向上につなげていくか?今日はそんなことをお話します。

ゆっくり読めないものを速く読めるわけがない

常々お伝えしているとおり,一定以上の英語力を身につけるには英文解釈の速度を上げる必要があります。しかし英語を読むとき,はじめからナチュラルスピードで読める人はいません。はじめはぜひ,無理せずご自身が楽しめるペースで読んでほしいと思います。

世の中,様々な英語学習法があります。私自身海外経験もなく,社会人になってから苦労して英語を身につけたもので,英語学習法についてもマニアのように様々読み漁ってきました。その中で,英文を読むこと,リーディングの重要性については大いに賛同しつつ,巷に伝えられる実際の読み方についてはかなり懐疑的な内容も多いと感じています。代表的なものが,いわゆる『多読』と言われるものです。

誤解なきよう申し上げますが,充分な英語力があって無理なく『多く読める』方が『多く読み』,英語で情報収集することは大変有益です。インプットが増えてますます英語力が向上し,楽しいからさらに読む。いいことづくめです。ここで疑義を唱えているのは,『たとえまだ読む力のない人も,辞書をひかずに前後を推測しながら速く読む練習をし,多くの英文を読むべきだ』という論調です。

これ,おそらく立場の問題だと思うのです。無理なく読める方の視点では真実なんです。かくいう私もある程度読めるようになった今となっては,そう仰る方の気持ちもわからないではないんです。いったん速く読む感覚が身につくとゆっくり読むのとまるで違うので,『ずっとゆっくり読んでいてもいつまで経っても速く読めるようにはならないだろう,どこかでギアを入れ替えて速く読む練習をしないと』と思う気持ちもわかるんです。特にこれは身体で覚えるスキルなので尚更です。

また,(学習者ではなく)教える側,たとえば英語講師のような方から見ても真実だろうと思います。多数の生徒さんを見てきて,やはり多くを読んでいる生徒は英語力がある。はじめから速く読める人はいないのだから,みんな練習をしてきてうまくなったはず。しかも(英語講師のように)英語を生業とする方は,おそらくご自身も英語が好きで,読める方々かと思います。なおのこと,学習者にも読んでほしいと思うはずです。

さらに,多読の本などを執筆されるのは英語のプロか英語教育のプロだろうと思います。そして皆さん日本人の英語力向上について,英語教育について,とても熱心に考えていらっしゃる。生徒を思えば『ずっとゆっくり読んでばかりいないで』と言いたくもなる。このように考えると,この論調は深く理解できます。

しかしですね,ずっと英語が苦手で出来損ないの学習者だった自分自身の経験もお話させてください。私も私なりにいろいろ頑張ったんです。でもですね,ゆっくり読めないものは速く読めません。速く読めるようになったのは,読む力そのものも上がった時です。これが試行錯誤を経た私の結論です。

無理にスピードを上げようとすると結局ついていけなくなるし,第一面白くない。英語の習得には時間がかかるので,楽しく続けられるよう意識することはとても大切です。そもそも,自分の興味・関心のある内容について読むというのは本来心躍る楽しい体験です。はじめは無理せず,ぜひご自身のペースで存分に楽しく味わってください。

学習効果を引き上げるための最後の一歩

とはいえ速く読めるようになることも必要です。ではどうするか。学習効果を引き上げるにはむしろ,ある程度読んで内容がわかった,その後が大切。一度読んで理解したものを,今度は少しづつスピードを上げて読む練習をしてください。時間も測れるとより効果的です。

初めて読む時は,内容を理解するところにも一定の思考力,時間がかかります。その段階では内容を楽しみつつ,しっかりと咀嚼してください。しかし英文の構造を理解するだけでは,スピード感は身につきません。とは言え構造がわからないものは速く読めません。有効なのは,しっかり理解したものを何度も繰り返し読むことで,スピードを体験・体感することです。それによって次第に,自然な速度で頭から理解できるようになります

一度読んだものなので,初見よりは必ず早くなります。2度,3度と繰り返すと,さらに速くなります。そうすると,まず『早く読むってこういう感じか!』という感覚が理解できます。この感覚がわかってくると,次第に普通に読んでいる時,内容にうまく入れた時などに少しづつ,そのスピード感で読めることが出てきます。さらにこれを続けると,実際の読むスピード自体も少しづつ上がってきます。始めから早く読もうとすると挫折しますが,一度読んだものをうまく使うと効果的にスピード感を養うことができます。これが英語の底力となってじわじわ効いてきます。

『頭の知識』から『身体の知識』に

言ってみれば,構文を理解する,意味を理解するのは『頭の知識』です。そして『ナチュラルスピードで読んで理解できる』は身体の知識です。そして実際の英語運用能力に何より必要なのは,この身体の知識の底上げです。今回はリーディングがテーマなので読むことに特化してお話しましたが,読む・書く・聞く・話す,4技能どれについても同じです。

私も会議通訳を生業としているものですから,海外経験がないというと英語の学習についていろいろとご質問を頂いたり,ご相談をお受けしたりすることがあります。一般的に英語学習は長い時間がかかるものですが,それでもかけた時間の割にあまりに効果が出ない場合,この頭の知識を増やす学習に比べて身体の知識にしていくトレーニングが少なすぎる,このバランスが上手くない方が多い印象です。

そしてこの適度なバランスというのは以下に詳述したとおり,ひとつの教材がナチュラルスピードで理解できるようになるまでは繰り返し取り組むべきだけれど,そこまでできるようになったら次にいくのが効果的だとあひるは考えています。

如何でしたか?自分の興味のあることを英語でも読めると,一気に世界が広がります。私自身も以前は全く読めなかったため,初めて『読める!』と感じた時の感動は今でも鮮明に覚えています。一緒に頑張りましょう, Bon Voyage!