こんにちは。会議通訳のあひるです。
前回洋書のススメとして,本選びのコツをお伝えしました。今日は実際の読み方です。私自身海外経験もなく,社会人になってから英語を習得する中ではあれやこれやと試行錯誤してきました。
今日は特に『こうあらねば!』といったものはありません。いろいろ試す中で見つけてきた無理なく進められるバランスを,ざっくばらんにお話します。
単語,表現,どこまで調べるか?
まず,読もうとする本の適当なページを開いてください。手を開いてパッと置き,5本の指それぞれが当たった場所の単語を確認してみましょう。5つのうち,知らない単語はいくつありましたか?
5本指のうち2つ以上わからない単語があれば,その本は単語や表現を調べずに読むには少し早いかもしれません。もし他にも読みたいものがあるなら別のもの,特に同じ分野でより読みやすい本を1,2冊読んだ後に回すのも一案です。
しかしピンポイントでこれが読みたい!という場合。一番面白そう,興味を引いた部分に絞って精読をしてみましょう。その本を選んだ以上,何かしら気を引くポイントがあったはずです。まずは目次,場合によっては日本語訳なども参照しながら一番惹かれる箇所を数ページほど選びます。
選んだ箇所について,まずしっかりと単語や表現を調べて理解します。私はこういう時は必ずコピーを取ります。そして内容が理解できたら,ぜひ繰り返して読んでみましょう。たとえ一部でもごく自然なスピードでスッと読めるように練習していくと,英語力の底上げにとても効いてきますよ。
ここまでしっかり取り組むものは,ぜひオーディオブックも活用しましょう。ある程度売れた洋書ならAmazonのaudibleで音声が手に入ります。その該当部分の音声を利用し,耳からも聞くと効果的です(audible,Abridged:縮約版では全編収録されていません。完全版であることをご確認ください)。
5本指のうち,知らない単語が0,もしくは1だった場合。単語や表現という意味では適切なレベルだと思います。うまく読み進められない場合,単語力より英文を読むこと自体の慣れの問題かと思います。
このレベルのものは,初めから完璧に調べようとする必要はありません。まずは読み進めます。わからなければ速度を落として,また何度か読んでみましょう。もちろん読めないものをいくら眺めていても学習にはなりませんので,どうしても引っかかる単語や表現などは調べる必要があります。しかし,このレベルで調べるのはあくまで最小限。はじめはゆっくりで構わないので,とにかく『英語を読むというプロセス自体に慣れる』ことに注力するといいと思います。
単語,表現をしっかり調べて理解して読む。細かいところは気にせず読み進める。どちらも必要で,どちらも効果的です。単に,それぞれのやり方にふさわしいレベルのものがある,というだけの話です。大切なのはそこの判断です。
抜き書きの効用:心に響く表現をおさえる
そもそも1冊全て読む必要はありません。1ページでも1行でも,読めばそれだけ成長します。上で難しいものの一部を精読する方法に触れましたが,どんな本も同じです。読みきらなきゃと心理的圧力を感じるくらいなら,面白いと思えるところだけでいいのでいろいろと読んでみましょう。
英語に少しづつ慣れたいけれど英語の本はまだハードルが高い,という場合。日本語の本を読んでいてとても気に入った,心に響くものに出会ったら,その部分だけでも英語を参照するのもオススメです。心に響く表現ほど心に深く刻み込まれて身につきやすいので,心動かされた表現だけでも英語を確認するというのはある意味とても学習効率のいいやり方です。
たとえば翻訳書を読んでいて気に入った箇所があれば,その前後の一節だけでも原書を参照し,そこを読んでみる。できればどこかに抜き書きをしておく。日本語の本も,ベストセラーになるようなものは英訳されていることも多いですね。気に入ったもののが英語になっていたら,ぜひ一緒に参照しましょう。自分の心に響いた表現をプロがどう表現するかはとても参考になるし,明日から使えます。
このような時,kindle unlimitedはかなりオススメです。自分の心に響いた表現というのは本当に身につきます。しかし洋書は図書館にも必ずあるとは限らないし書店(オンライン含む)でも在庫が少ないしあっても高い!入手するハードルが高くて逃してしまうのは,本当にもったいないです。英語に限らずあらゆる学習で言えることですが,とにかくあらゆるハードルを下げておくことが継続のコツです。
日本語の英訳書,英語オリジナル,それぞれの読み方
上で,いい表現があったら英訳を参照することをオススメしました。関連して,よく聞かれる質問をひとつ取り上げます。初めて洋書を読むのに英語オリジナルのものがいいか,日本語オリジナルのものの英訳書がいいか。私の個人的な答えは『どちらも有効だが目的が違う』です。
そもそも,英語と日本語では文化も成り立ちもまるで違います。言葉は文化ですから,身も蓋もないことを言ってしまえば真の意味で完全な翻訳などありえません。通訳・翻訳というのは,あくまで『日本語で表現されているこの状況を英語で表現する場合,最も近い表現を当てはめたもの』です。そういった意味では,そもそも翻訳というのは無理があるものなのです。
原本が英語の書籍が有効なのは,言うまでもありませんが自然な表現を身につけられることです。日本語を読んでいても,たとえ翻訳がどれだけ素晴らしくても,元から日本語で書かれた文章と英語を日本語に訳した文章はやはり違うと思います。このナチュラルさ,これを学ぶならもちろん英語オリジナルのものです。
逆に日本語の英訳が有効なのは,日本語,日本文化,日本人特有の感情や思いをプロは英語でどう表現するのか,それを学べることです。たとえば漱石を読んで,谷崎を読んで,村上を読んで,これは私だ!と感じられる方,英語学習は半分終わったようなものです。あなたのその想いは既にプロが訳してくれています,ぜひ英訳から学びましょう。明日から使えます。このように,日本語固有の表現をどう英語にするのか,それを体感するのに日本語の英訳書は本当に勉強になります。
それでも難しく感じるあなたへ
いろいろ雑多にお話してきましたが,それでも洋書です。なんといっても英語で本を読むのですから,それはハードル高いです,当然です。『とりあえず読む』ために効くことを,さらに2つ挙げます。
始めの1章だけ日本語で読む
訳書がある場合,はじめの1章だけ日本語で読んで続きを英語で読むのは割とオススメです。これは和書・洋書に限らず,一番ハードルが高いのは冒頭,その本の前提というか設定を理解するところ,というケースは結構多いからです。私も,日本語でも英語でも挫折するのは大抵冒頭30ページ以内です(冒頭30ページ読んだものは大抵読み切る気がします)。そういう意味でも,とりあえず日本語で設定だけでも理解してから英語に入ると意外と読めることもあります。
日本語で読んで知っているものを英語で読む
これもオススメです。たとえ内容を知っているものでも,英語で改めて読むのは充分な学習効果があります。リーディングで最も重要なのは英文を構文として解析し,意味を再構築していくプロセスだからです。逆に内容を知っていることで,『あの○○って英語だとこう言うんだ!』と日本語との比較ができて,さらに気づきが多い場合もあります。
洋書のお供はKindle unlimitedとaudible
上の『単語,表現,どこまで調べるか?』でaudibleに,『そもそも全てを読む必要はない』でkindle unlimitedに触れましたが,この2つは洋書を読むための最強のインフラです。高いスクールや教材にお金を払うくらいならまずこの2つを備えましょう,間違いなく元が取れるしずっと効果があります。
何故か。洋書は高い,買いにくい,ということもありますが,それより何より自分にあうレベルのものを探すのに非常に時間がかかるからです。洋書を読み始めた頃にレビューをちょっと読んで,本屋でパラパラと開いて,自分に合う本を見つけるのは至難の技です。私自身,買ったけれど読めなかった本も,その結果『面白そうだけど読まないかな』と買い控えてしまった本も,たくさんあります。学習効率を考えるとそのようなハードルはとにかく下げておいた方がいい。
まずkindle unlimitedを使って,目ぼしいものはとりあえず開いてみる,読んでみる。日本語なら本屋で手にとってパラパラ見ればある程度見当もつきますが,英語の場合は家である程度時間をかけて読んでみないと『これ意外と読めるかも』『これいいと思ったけど読んでみたら難しいな』というのは判断できません。unlmitedのサービスを使うことで合うものが見つかるまで次から次,といくらでも読めるのはかなり大きいです。たとえ最終的に紙の本が欲しくなったとしても,確実に読む本に絞って無駄なく買えるので充分元は取れます。
さらに,値段を気にせずに『好きなところだけ』『気に入ったところだけ』を読めるのも大きな魅力です。上で触れましたが,1冊買ったら全部読まなきゃいけないなんてことはありません。1ページでも1行でも,読んだ自分は読まなかった自分より成長しています。興味のあるところだけ,値段を気にせずにどんどん読めるというのは学習効果の点でも大変有効です。
そしてその『好きなところだけ』『気に入ったところだけ』を,値段を気にせず耳からも聴けるのがaudibleです。audibleはさらにプロの朗読ですから,英語のモデル音声としても大変素晴らしいです。下手なインタビュー音声なんかよりずっと良い。さらに一般的な会話より少し遅いのでわかりやすい。私も通訳学校に行き始めた頃,よくこのaudible音声をシャドーイングに使っていました。
如何でしょうか。もちろん読むことの学習効果はありますが,それ以上に自分の興味関心のあることを英語で読めるようになるのは,純粋に楽しいものです。今回は洋書が少しでも読みやすくなるコツをお話してきました。次回はこの読書を,実際に英語力向上につなげるやり方をご紹介します。ぜひ一緒に頑張りましょう,Bon Voyage!