こんにちは。会議通訳のあひるです。
私は大の苦手だった英語を克服したことで他の言語にも興味がわき,今もあれこれ学んでいます。外国語が話せると本当に楽しいと心から実感できたからです。
中でも私はロシア語は講座のカリキュラムに沿って学習,フランス語はアウトプット中心の独学と,まったく対照的なやり方で進めてきました。今日はその経験をお話します。この対比は,いろいろな意味で外国語学習のヒントになると思うからです。
初学の外国語,私の始め方
私は初学の外国語を始める時はまず,全体像の把握を目指します。いきなり挨拶表現を覚えたりしません。まず『何をしなければならないのか』を把握します。せいぜい1週間から10日ほどのプロセスです。
まず読みやすく,基礎から全体を解説してくれる文法書を一気に何度か読みます。この時点で内容は全く覚えません。その言語の全体像を把握し,どこに何が書いてあるのかを理解します。そして何からやろうか考えます。
ここはぜひ書店に足を運び,ご自身にとって読みやすいものを探してください。私も大型書店をあれこれまわって探しました(楽しいですよね)。ロシア語は『標準ロシア語入門』で基本的な項目を追いつつ『初級ロシア語文法』で詳細な解説を読み通していきました。フランス語は『フラ語入門,わかりやすいにもホドがある!』で全体像を把握しつつ,ある程度進むと『ケータイ〈万能〉フランス語文法』のまとめを確認していきました。控えめに言って,この4冊はどれも独学者のバイブルです。実に素晴らしい。
ちなみにこの考え方の基本は,英語を中心に以下にまとめています。しかし他の外国語も同じです。
ここで細かいことはまるで覚えていないものの,どんな項目があるのか,何を学ばねばいけないのかの全体像だけが頭に(ぼんやり)入ります。
正直なところ,英語以外の言語は教材の充実度によってもベストな学習法はかなり変わります。なので完全に好みで選べるものでもないのですが,私はロシア語は講座をとることに決め,フランス語はしばらく自分でやってみることにしました。
ちなみにこれは,初めに学習方針を全て決めるという意味ではありません。実はフランス語も,どこかのタイミングで習おうと思っていたんです。結果的には今のところまだずっと自分で続けているだけです。
カリキュラムに沿って学んだロシア語
なぜロシア語ははじめから履修したのか。たまたま思い立ったのが4月頃で講座が豊富だったこともありますが,一番の理由はそもそもテキストを数冊読んでもアルファベットが書けるようにならなかったから。もうこれは習った方が早いと判断し,とある大学の市民講座を1年ほど受講して基礎を習いました。
実は後からアルファベットはYouTubeでいい動画も見つけたのですが,結論,ロシア語は受講して本当によかったです。講義では言語そのものだけでなく,先生方のご経験から効果的な学習法なども教えてもらえます。情報が少ない言語はこのような学習のコツ,ヒントも大変有益だからです。
余談ですが完全に新しい言語を習う時,大学の市民講座はコスパ抜群なので以下に詳述しておきます。
ロシア語は,愚直にカリキュラムに沿って学習しました。授業は日本人の先生がひたすら文法事項を解説してくださる講義形式です。毎週予習をし,授業で先生の仰ることをひたすらメモして帰宅,復習と同時にその日のテキストにある例文を覚えていきます。これはまさに,英語を含めいわゆる日本の学校の典型的な学習方法ではないでしょうか。
このような方法で外国語を学習するのは,実に中学1年生で英語を始めて以来。十○年ぶり?○十年ぶり?にやって改めて思いましたが,やはり1年も愚直に積み上げていくと実にしっかりと基礎が身につきますね。しかし1年かけないと文法事項が終わらないわけですから,やはりアウトプットありきの練習を始めたのはとても遅かったです。そういった意味で,ロシア語はやはり全般的に時間がかかりました。
アウトプットありきで進めてきたフランス語
対してフランス語。
実ははじめ独学は考えていませんでした。どこかのフランス語講座でも受けようと思っていたのですが,時期的にちょうどいい講座がなかったんです。また私は個別のフレーズをひとつひとつ積み上げていくようなやり方より,とにかくはじめに全体像を把握したいタイプ。そのため,初学の言語で会話重視のマンツーマンレッスンに利点は感じませんでした(ある程度習得した言語には有効なのですが)。
そこで4月に様々な講座が開講するまで,できることをやっておこう。そんな『一時的な』独学でした。しかしフランス語は教材がすごく充実しているので,独学でも早い段階からアウトプット中心の学習が可能になります。結果論ですが,これはとてもよかった。学習サイクルがとても早かったです。
ロシア語同様まずは読みやすい入門書を一気に何度か読みます。私は『フラ語入門,わかりやすいにもホドがある!』,『ケータイ〈万能〉フランス語文法』が中心でした。しかしフランス語は教材が充実していて,また比較的英語にも近いことから,何冊か読むとそこそこ全体像が見えてきます。
フランス語はこの時点でアウトプットを始めていました。なにせ当時は独学する気などさらさらなく,『そのうちちゃんと勉強するし!』といった感じです。なんの目標も気負いもない,気分が乗っていたが故の完全な遊びです。
はじめは大した内容ではありません(できません)。しかし,とりあえず頭にあることをフランス語にしていきます。はじめは『手帳に書くひとことをフランス語にする』イメージです。『今日カレー食べた』,『明日ハナコに会う』,この程度です。これも難しければ,手帳に『13:00@東京駅,ハナコ』とフランス語で書くことを考えます。
当然,まずは単語を調べます。カレーって何?そして文法の全体像は一読していますから,表現自体は知らなくても調べるべきポイントは頭に入っています。名詞であればフランス語は男性か女性か,冠詞の種類,そして単数複数を考える必要があるので調べます。そして次に動詞の過去の表現,云々。
ある程度考えたら,当時はGoogle翻訳の英仏翻訳を使って確認していました。フランス語は日本語より英語に構造が似ているので,日仏訳より英仏訳の方がうまくいきます。そして思っていたのと違う結果が出てきたところをまた調べるのですが,おそらく今ならChat GPTに聞くと思います(“次の文章の間違いを直してください”と自分の作った仏文を入れると添削してくれます)。
(飽きもせず)このようなことを延々繰り返していくと,何度も何度も調べる事項というのが出てきます。『男性名詞の定冠詞ってなんだっけ』『この動詞の過去形ってなんだっけ』等々。
このように『いつも困るポイント』が出てきたら,それをまとめて学習し,覚えていきます。冠詞の使い方一覧,不規則動詞の活用一覧,基本動詞の活用一覧,数字,曜日。このように知識を上乗せしてまたアウトプット学習。ある程度できるようになってきたら構文集やリーディング教材などを使い,足りない知識を底上げしていきます。私のフランス語学習,基本的にこんな感じで進めてきました。かなり早くからアウトプットありきの学習ができたため,学習サイクルは非常に早かったです。
キモは『困難の分割しやすさ』とのバランス
このフランス語の学習過程で思い出したのが,英語学習でした。そう,超苦手だった英語を克服した時にやっていたのも,まったく同じプロセスでした。とにかく頭にあることを英語にしていく。
このプロセスを経て私は,英語に限らずどんな言語でも,アウトプットを中心にすると習得が早い,と確信するに至ります。英語の試行錯誤,そして他言語の経験から,私の考える最も効率的で効果のある外国語学習法はこちらにまとめています。
そう,アウトプットは効果的。しかし今振り返って,仮に今からもう一度ロシア語を始めるとしたら,フランス語と同じプロセスでできたでしょうか。残念ながら,やはり私には難しかったと思うんです。うまく言えないのですが,(私には)ロシア語は困難を分割するのが難しいからです。
たとえば,アルファベット。見たこともない文字は覚えればいいのですが,ロシア語の”B”は英語のV,”H”が英語のN,”C”が英語のS,”P”が英語のRです。これ,始めは地味に混乱します。加えて英語にない概念が諸々出てきます。たとえば格変化。ロシア語は名詞も形容詞も人称代名詞も疑問詞も全て変化するので,例えば“私の赤いノート”と言うには『私の』『赤い』『ノート』全て変化します。始めは割に混乱します。
この辺りは正直,個人の前提知識によってかなり変わります。英語の習熟度によっても変わりますし,例えばスペイン語やイタリア語ができればフランス語は早いと思います。しかし自分でやってみてつくづく思ったのが,『自分にとって』ややこしい要素が1つ2つであればさっさとアウトプットありきで学ぶのが効果的ですが,2つ3つ絡み合ってくると一気に沼にハマります。このブログでも常々お伝えしているとおり,効率的な外国語学習では『困難は分割せよ』もまた真理なのです。
ロシア語も一般的に難しいと言われますが,何に引っかかっているのか,その困難をひとつひとつきちんと分解できれば決して習得不可能な言語ではないと思います(私はまだ道半ばですが)。ややこしい要素が絡み合っていたらとにかく困難を分割してひとつひとつ潰していく。そしてある程度全体像が見えたら,可能な限り早いタイミングでアウトプットありきの学習を始める。結局この適切なバランスが,効果効率と学習しやすさのバランスになると私は考えます。
アラビア語だってアウトプットありき
ここで一冊,外国語学習の名著をご紹介させてください。元外交官でアラビア語専門職だった中川浩一さんがご著書:『総理通訳の外国語勉強法』で,やはりこのアウトプットありきのやり方でアラビア語を身につけたご経験を書かれています。これ,私は首がもげるほど頷きました。賛同しかありません。
ゼロからアラビア語を始め,日本で1年,エジプトに行って3年の研修を受けますが,このエジプト研修中には既にアウトプットありきのやり方を確立されています。学習開始から4年8ヶ月で外交交渉の通訳をなさっています。あのアラビア語ですよ?この方は最終的に天皇陛下や総理大臣の通訳も務めていらっしゃいましたが,この勉強法はとても参考になりました。オススメの一冊です。
そう,『知らない言葉だから』『難しい言葉だから』全て習得するまでインプットしなきゃいけない,なんてことは絶対にないんです。もちろん様々な要素が絡み合って如何ともし難いは,しっかり困難を分割して対応していく必要があります。しかし最低限の基礎を習得したら,やはり外国語学習は自分の言いたいことありきなんです。わからない文法や覚えるべき表現が出てきたら,その時に取り組めばいいのです。
今日は私自身のまったく異なる外国語学習体験をお話しましたが,如何でしたか?外国語はどうしても一朝一夕にはいかないからこそ,やはり皆さんの状況に合わせて最短の道を行ってほしい,そんな思いで今日はお話しました。少しでも参考になったら,とても嬉しいです。一緒に頑張りましょう,Bon Voyage!